ご挨拶GREETINGS

代表・副代表のあいさつ

奥野 恭史

ライフ インテリジェンス コンソーシアム(LINC)代表
奥野 恭史

  • 京都大学 大学院医学研究科 理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム

近年、Deep Learningのブレイクスルーをきっかけに、世界中で人工知能(AI:artificial intelligence)が注目され、さまざまな産業分野での利活用が検討されています。まさにAIは第4次産業革命の中軸として産業界に大きなインパクトを与えようとしているのです。

ライフサイエンス分野においては、医療分野でのAIを用いた診断支援への応用など、さまざまな試みがスタートしていますが、尊い生命に関連する分野であることから、ライフサイエンス固有の特徴を考慮したAIの開発や応用が課題となっています。また、AI関連技術の研究開発力そのものの国際競争は激化する一方であり、科学技術立国日本の真価が今まさに問われています。

このような情勢の中、多くの方々のご指導、ご協力を賜り、2016年11月に「ライフ インテリジェンス コンソーシアム(LINC)」を設立いたしました。LINCでは、製薬・化学・食品・医療・ヘルスケア関連のライフサイエンス分野におけるAIならびにビッグデータ技術を開発することで、関連諸分野の産業振興、保健医療の高度化による国民の健康長寿に資することを目指しております。2019年1月現在、LINCには、AIを開発するIT関連企業、AIを利活用するライフサイエンス関連企業、および関連領域のアカデミアからなる90を超える企業・団体が集い、医薬品開発プロセスのさまざまな課題や医療・ヘルスケアにおける現場ニーズに応えるAI技術の開発を、総勢500名を超える参加者が一丸となって進めています。

LINCを起爆剤としてIT業界とライフサイエンス業界の融和が促進されることにより、日本のIT業界が世界のAI産業競争に勝てる土壌が築かれること、またAI戦略によりライフサイエンス業界の産業競争力が加速されること、ひいては日本発のライフサイエンスAIが世界の多くの人々の健康と幸福を支える未来につながるものと確信しております。

水口賢司

LINC副代表
水口賢司

  • 医薬基盤・健康・栄養研究所バイオインフォマティクスプロジェクト

医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)がミッションとする創薬研究は、異種データを組み合わせる必要性と、多くの暗黙知の存在などから、人工知能(AI)の応用としては難易度の高い領域だと認識しています。だからこそ、我々のような国の研究機関と企業コンソーシアムのLINCがタッグを組んで問題に挑戦する、格好の素材だということもできます。NIBIOHNでは、AIを用いた創薬ターゲット発見を目指して、ドライとウェットの研究グループが協力し、研究所全体としてプロジェクトを推進しています。また、腸内細菌と生活習慣、栄養情報、薬物動態・毒性、アジュバントの有効性と安全性などに関連する様々な統合データベースを開発しており、これらの多様なデータの解析にも、AIが力を発揮すると考えています。一方で、上で述べた暗黙知を機械が利用できる形に整えていく地道な作業もコミュニティーとして推進していく必要があります。データ産生者・解析者としての我々と、先端の解析手法を提供するIT企業、出口を見据えたライフ系企業の三位一体を実現することで、単独ではなし得ない新たなイノベーションを実現することが、我々に課せられた使命だと考えています。

本間光貴

LINC副代表
本間 光貴

  • 理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター生命分子制御研究グループ

医薬品はターゲット探索、ヒット探索、ヒットtoリード、リード最適化、前臨床、臨床試験という多くの段階を経て研究・開発されますが、全体の成功率はわずか数%程度です。これらの創薬の過程を効率化するために分子シミュレーションや機械学習などの計算科学的手法を用いる試み(いわゆるインシリコ創薬)が1990年代以降行われて来ており、タンパク質の構造解析技術の向上、計算機の性能の向上、計算手法の革新が進み、創薬の現場でも実用的な技術として定着しています。しかし、従来のインシリコ創薬では創薬過程のごく一部しか効率化できませんでした。

LINCの試みは、ターゲット探索から臨床試験に至る多くの過程を包含する形で30のプロジェクトに分かれて同時並行でAIの開発を進めており、従来のインシリコ創薬では対応できなかった多くの過程において創薬をリードするAI群を実用化することを目指しています。製薬企業を始めとしたライフ系企業とIT企業が100社以上、合わせて500人規模の研究者が手弁当で共通の目的に向けて開発を進めるのはこれまでにない試みであり、大変わくわくしています。企業の枠を超えて議論することで様々なアイディアが出つつあり、LINCを支えるアカデミア側の役割として、メンバーが密接に議論したり開発を進められる「場」を提供するとともにサイエンス面での支援を行っていきたいと思っています。